2011年2月26日土曜日

R.W.計画 その6 塗り

 彫りを終えて、塗りにはいります。ここまで1年以上かかってしまいました。こんなことやってられるのも、注文のないおかげです。世間からは彫刻家として数えられず。あせった時期もあったのですが、最近はそれもなくなりました。どっこい生きてます。
 あらためまして、塗りのはなしですが、わたしは人像彫刻に英国製のエナメル塗料をつかっています。HumbrolというメーカーでMatt, Satin, Gloss、と3種類の光沢があり、人像につかうのは主にMattの光沢のないツヤ消し塗料です。これは顔料がひじょうに細かくていいのですが、すぐに分離して固まってしまいます。使用前によく攪拌しなければなりません。そこで旋盤にとりつけて回すことを思いつきました。このブログのリンクにある銀窯さんの陶芸用の釉薬の攪拌機を見て真似しました。塗料のカンのなかにパチンコ玉が入ってます。
 この機械がまわってるあいだ、仕事してる気になれるのがイイとこです。
 最初の地固めして乾かしてます。
 研磨した粉で紙ヤスリや水ペーパーが滑ってしまうのでペーパーヤスリの裏に両面テープをはり指にはりつけて研いでます。材料の凸凹を指に感じることができます。凹の部分をおもに研ぎます。凸の部分は意識しないでも研げてしまうので放っておく感じです。バッチイ指の写真で申し訳ありません。
 10回塗りと、研ぎを繰り返しました。どうしても入隅に塗料が溜まってしまうので、刃物でほり起こしてます。
 下塗りが終わったところです。下塗りはツヤ消しの塗料だと耐久性に劣るので、光沢のものをつかいます。
 ところで、この人はモナ・リザだったんですね!コレでエエんじゃろか?
 仕上げはツヤ消しで、乾く間際まで染色用のハケで叩き、梨地状にします。
 こんな色を肌に使います。どんな色でも1色ベタにぬってはだめなようです。

2011年2月20日日曜日

R.W.計画 その5 彫り

 ミケランジェロの彫り方って、おかしいと思いませんか、荒彫りという段階がありません。石のかたまりから膝頭が出てきて、そこだけ仕上がったまま残ってるものがあります。ギルランダイオが師匠であるはずですが、はやくからメジチ家にあずけられてしまったらしいです。本人も水槽から水が出ていくように中から彫刻が出てくると言っているので、おかしいのは確かです。
 システィーナ礼拝堂で首を背中の方へまげ、天井の巨大な顔をフレスコの制約で短時間で描きあげ20メートル下から見てチャンと出来上がってる。という特技の持ち主です。普通とちがうのでしょう。
 ドナテロやギルランダイオの世代に興隆であった鋳造技術もミケランジェロやダ・ヴィンチの頃には廃れてしまって石を彫るしかなかったのです。
 若い頃は"自己流"でやっても、いきおいで仕上がったのですが、晩年のピエタなどは、それがせいで仕上がらなくなった、というのが私の正直な感想です。ミケランジェロは受注のものが出来上がらず。契約不履行で施主から逃げまわってます。一から十まで自分でやらなきゃ気が済まない、というのも仕上がらない理由の一つではありますが。
 
 彫りの作業ですが、ただひたすら彫るだけなのでこれといって書くことはありませんので、私の使ってる彫刻刀(トウ)を紹介します。

 右の6本は柳刃と言ってつかっているトウの大中小の左右6本です。おもに凹の部分を仕上げます。凹の部分は丸刀でさらっただけではだめで、コレで仕上げます。凹の部分は縦断する仕事ではなく、それを横断する仕事が必要です。よくヒトに、いつ仕上がったとわかるのか?ときかれますが、凹の部分の谷底が決まったときだ。と、答えときます。実際は仕上がったときなんか分かりません。
 この柳刃は、放物線状に研いでありますので、凹のどんなアールにも合います。
 私は、研ぎ水が柄にしみこんだり、柄の中で刃物が錆びてしまうのがいやなので、着脱可能にして、研ぐときは柄から抜いてといでいます。
 普通の柄の仕立て方を載せておきます。クリックして拡大すると、かろうじて読めるとおもいます。

 以下はR.W.計画の各部の写真です。
 背面です。軽量化のため内刳りしてます。内刳りの効用は、他に、
*・・材料を内側からも乾かし、割れをふせぐ。
*・・木の変形する力から、接ぎ合わせを守る。
があります。
 肩部です。服を着なければならないので、可動式になってます。
 手の部分は、まる彫りです。
 頭部の彫りが、ほとんど終わった状態です。コレでイイんだろうか。

2011年2月11日金曜日

R.W.計画 その4 荒彫り (穴屋考)

 木取りの製材が済めば次は彫りなのですが、写真をあまり撮っていませんでした。この作業はけっこうアツくなりますから写真撮ること忘れます。
 そこで、荒彫りといえばノミなので、同じノミを道具とする穴屋について考えたいと思います。穴屋とは大工に雇われ、建築の構造材に穴を掘る専門の職業のことでした。角ノミ機の普及により仕事を失いました。余談ですが、鉄橋、船などの鉄板を組むためのリベット穴をあける職種も穴屋と呼ばれたらしいです。これも古い溶接技術のない時代のはなしです。Uの字型の鉄棒の先に雄と雌の打ち抜きポンチが鍛接してある道具を使い、それで鉄板をはさみハンマーで叩いて穴をあけたのです。
 木造建築の穴屋ですが、玄翁とノミだけが道具なわけで、それを日がな一日使うのですから、その道具はトラブルのないように機能的に洗練されていました。それは、そばで仕事している大工のあいだにさえ伝わることはありませんでした。
 穴屋の道具ごしらえを現在に伝えたのは、三軒茶屋の大工道具店の土田一郎さんです。土田さんは最後の穴屋だった通称・穴菊の所へ通い、それを伝授されたのです。ふつう、大工作業を含む木工と彫刻とは、道具の役割が真逆です。木工はノミで工作した箇所が隠れるのに対し、彫刻はカンナで作業した箇所は接ぎ合わせ面としてかくれます。しかし、ノミやゲンノウの持つ機能としては一緒です、土田さんから教わった穴屋のノミ柄のおかげでトラブルなく快適にノミを使ってます。彫刻屋は,幅の広いノミを余計に叩くところも大工と逆です。幅広いノミで広葉樹の荒彫りをしますと、毎日、カツラさげ(あとで記します)をせざるを得ません。
穴屋が使ったと思われるノミ、7分?と6分
どうです?「やむべからざる実質の美」とは、このことです。


 では、土田さん直伝、穴屋から孫弟子にあたる私のノミ柄の仕立てかたを記します。


 図1・・・上にコミの形状が4つ並んでいます。一番右のコミは現代の退化してしまったコミです。穴屋方式のノミ柄は左の三つの太いコミで効果を発揮します。長いコミもいけません。下にノミ柄3本がならんでいます。彫刻ノミを買うと一番右のようなノミ柄がついてくるとおもいます。一番左が浅草方面の穴屋のスタイルで、真ん中が麻布の穴屋のノミ柄です。違いが分かりますか。
 図2・・・ルーターなどのコレットチャックと比べて見ました。正規に太いコミですと先端がどうしても割れてしまうとおもいます。しかしこれは心配におよびません。これがコレットチャックとおなじ理屈になり、何度、着脱してもゆるまない秘密です。


 図3・・・上は口金にカツラ(冠)をいれて、そのバランスを見てカツラのサイズを決めています。右は麻布好み、左は浅草好み。口金とカツラの内側をヤスリで面とってます。
 図4・・・下穴をあけ、繰り小刀で穴を四角にします。この時にコミに鉛筆をぬり、抜き差ししてあたるところを削っていくとイイでしょう。くちがねに切り出しを乗せトースカンにしてしるしをつけ、口金の食い込むところをテーパーにしています。これが重要で、出来合いのノミ柄もコレをやるといいでしょう。右上は丸棒削り台です。
 図5・・・カツラをはめるときは、木槌で口金方向から叩きます。さらに一まわり大きなカツラをしき叩き木部をカツラから出します。使用中にカツラがゲンノウにあたりだしたらコミをぬき、この作業をします。故に、コミは何度も着脱をくりかえすようにできていなければならないのです。コミを抜く場合は左手に木槌を持ち、ノミの口金部分を木槌のかどに打ちつけます。
 穴屋は、柄がチビて新規にすげ替える場合、穂の減ったぶん柄を長くして総丈9寸5分(廣ノミの場合総丈1尺5分)にして再スタートします。



 ついでに穴屋のゲンノウの図面を載せておきます。穴屋のゲンノウは大工の使うゲンノウより重く細長いです。








 上の写真は、穴屋仕様の廣ノミですが、穴屋は突きノミを持たずに柄をすげ替えて、さらいに使ったそうです。このときに廣のみの首が短く裏を定規にして突くと深い穴の場合、口金があたってしまうので口金を斜めにスッて柄を浮かすように角度をつけます。これは、最近、土田さんが思い出したように試作していたのをみて私もこの方法にやりかえました。とても合理的です。



 以下の写真はR.W.計画の胴体部の荒彫りです。頭部は尾州桧で胴部は米杉です。ホントは全部、桧でやりたいのですがこんな大材は望む方が無理かも知れません、それより米杉で接ぎなしでやった方がイイかもしれません。製材でチェーンソーを使わないともうしあげましたが、この段階では使います。あと、両刃の鉈も針葉樹には有効だと思います。