2012年2月18日土曜日

かしゆ鉋、銘「樫有香」完成

かしゆ鉋(カンナ)、銘「樫有香」
正幅一寸四分の、素晴らしい出来の広島産鉋です。
鍛冶屋さん、地金に日本地を使ってくれました。
(日本地:溶鉱炉の導入前の木炭で精錬された鉄)
ハガネは、もちろん炭素鋼
ワクワクします。
さて、鉋として仕立ててまいりましょう。
まずは、ウラだし、刃のウラ(甫)の基準面づくりです
この作業はウラすきでへこんだウラを柔らかい地金の部分にキズをつけ、
ハガネを押し出す作業です。
けっして、叩き曲げてるのではありません。
ハガネが冷えてると割れる可能性がありますので。
安全のため刃をお湯で暖めます。
鉄の70~80℃は持てないくらい熱いので手袋をしてます。
この金敷は通称「ハチノス」です。
研ぎと、ウラ出しの作業を往復します。
最終的に残った打痕です。
小規模精錬の不均一な地金のスが分かると思います。
やわらかいので研ぐときに楽です。
このように砥石にあたるようにします
刃の研ぎの角度検査はこの手製のノッチゲージを使います。
三角ゲージです。
のっちゲージで刃角度29°に設定。
さて、鉋の台には、この柊(ヒイラギ)を使いましょうか。。。
おっといけない!
これは、樫の台に挿げられる、かしゆ鉋
銘「樫有香」樫のカオリがある鉋だった!
1994年製材の、とっておきの白樫をつかいましょう。


スミの内側を彫りすすめます。刃の出る口の方は定規を当てて正確に。
口の方からドリルで貫通させます。ドリルの穴に引き廻しノコをとおします。
鉋のコバを挟む押さえの部分を、押さえ挽きノコで挽き、間をノミでかき落とします。
台を削りながら刃を入れていきますが、
鉋刃の耳の部分が押さえをカジってしまわないように、面取りをします。
ダイヤモンドヤスリを使いました。
刃に油をつけ、あたるところを削っていきます。
ハッキリしなくなったら鉛筆をぬります。
箱の部分をスミの線まで広げます。


現在、鉋の台彫りは専門の人がやりますが、
東京では明治時代に大阪屋佐兵衛(だいさ)が台付きで売ったのが最初だそうです。
それ以前は刃を買い、自分ですげていました。
これから、台彫りの技術者が少なくなってしまうので、
また、自分でやらなければならなくなるのではないでしょうか。
刃口に逆目止めの真鍮を埋め込みます。
今回、厚さ3ミリ(今までどおり2ミリでよかった)のものを埋めました。
フライスで深さ4ミリの溝を彫ります。
フライスは廃棄処分のものをもらいました。
それ以前はミニルーターに、こんな治具を作って彫っていました。
鉋の刃口用の定規です。

鉋の真鍮の口埋めですが、どうでしょう。初代の真鍮板を挿す溝は挽き通しで良く、そのかわり浅くしておく。台が減り二代目の口は埋木となるので工作が容易になり、そのときには挽き通した溝はより浅くなっているし、将来消えるでしょう。

最初は挽き通ししての真鍮の口埋め。真鍮いりのブロックを埋めた二代目の刃口。







完成です。一枚ガンナのスッキリした形です。




かしゆ鉋、銘「樫有香」






*削り試験(刃の持久力試験)を行いました。2012年2月29日追記
左が中砥での研ぎ、右が仕上げ研ぎです。
研いでみると、ガンコな焼きが入ってます。
刃がつくのに結構時間がかかりました。
肉眼で研ぎのヘアラインが多少見えますが、削りに入ります。
左がいつも削り試験に使ってる尾州ひのきです。しばらく使ってなく、表面が焼けてしまっていて、かしゆ鉋にとっては、ちょっと不利だったかも知れません。
右は、削り試験の途中です。口が狭くて真鍮の口埋めが効きすぎて屑が波うってます、最初から広く開けるのもつまらないですから。
私の刃の持久力検査は、刃よりも幅の狭い材料を使って、鉋が「一調子」でどこまで削れるか計測するものです。
幅の広い材料を、おくって削ると平均した屑が出ないので刃より狭い材料を使います。
鉋屑が粉をふき始めたり、屑が割れ始めたりしたら終わりです。新たに、刃を叩いて出して削ることはしません。鉋の削った距離、鉋屑の合計距離を比較します。

ここで失敗だったのは、過去のデータが紛失してしまっていることです。
試験ごとの屑をビニール袋にいれ、袋にデータを書いておいたヤツが出てきません。
義廣の大ガンナの240尺というデータだけ残ってます。今までやった中で、同じ基準で400尺を越えた鉋はなかったです。かしゆ鉋は280尺いきました。たしか明治時代の輸入ハガネを使った國虎の鉋が300尺近くいったはずで、それが最高でしたから、とても優秀な数字だと思います。100尺いかない鉋もありました。材が焼けてしまっていたこと、鉋の刃がオロシたてだったことを考えても持久力のある鉋刃であることが分かりました。